オープンデータが創る3Dプリンター文化の未来 - 無限の可能性を持つ3DCGデータ達 -
3Dデータは身近にある?
3Dプリンターがホットな話題として世間を駆け巡った今年。
しかし3Dプリンターには出力するための3Dデータがなければ利用が出来ません。
で、現在3Dデータと呼ばれる物は世の中にどれだけ存在しているのでしょうか?
実はゴロゴロ存在しています。
ネット上で公開されているThingiverseやその他3Dプリンター向けの3Dデータはまだつまらない物ばかりですが、
例えば家庭用ゲーム機でプレイできるゲームコンテンツを構成する映像は、ほとんどが3Dデータです。
ゲーム用の3Dデータは正確には「3DCGデータ」と呼びます。
これらはデジカメ写真のような平面画像ではなくすべてXYZ座標により空間定義された「ポリゴン情報」をもとに作られており、ゲーム機内部で様々な角度から眺めた絵を瞬時に描画することでゲーム内の映像として表示されているのです。
何故ゲームの3DCGデータは3Dプリンター利用が考えられないのか?
こうした3DCGデータは3Dプリンターで立体化するのに最も適している、と言えるはずです。
しかし何故か3Dプリンター流行りの世間において全くその関係性が注目されていません。
それは残念なことに「あと一歩情報が足りない」ために3Dプリンターで出力ができない、という技術的理由があるから、
・・・だけではないのです。
ゲーム内の3DCGデータはゲーム以外の目的で利用することは当然禁じられていますし、勝手に取り出して勝手に配布すれば著作権法違反に問われかねない事態になります。
それ故に3DCGデータを使った個人的なホビーは3Dゲームが一般化して10年程の間出現しませんでした。
基本的に3DCGデータはゲームのために開発するためのものであり、それを個人的に利用できる形で制作・配布出来るのは、3DCGデータを作成できるスキルを持つ人達だけに限定されてきたのでした。
3DCGデータの常識を変えた天使「初音ミク」
しかし、2007年8月31日。そんな状況に突如として女神が舞い降りました。
ボーカロイド「初音ミク」が発売されたのです。
初音ミクはボーカロイドという歌声作成ソフトの名称でしたが、その歌声に合わせてパッケージ絵の姿のままに動き踊る3DCGデータを作ろうという動きが沸き起こりました。
開発・販売元のクリプトン・フューチャー・メディア社も初音ミクを普及させるため、今までになかった「キャラクターデザインを使った二次創作を許可する」方策に出たのも大きく影響し、絵師や3DCGモデラーの注目を集めるに至ったのです。
その結果彼女の姿は数多くのモデラーの手により3DCGデータ化され、その多くはオープンに配布されるに至りました。
そして2008年2月、その究極形が登場します。MikuMikuDance(MMD)です。
MikuMikuDanceの登場と増えるオープン3DCGデータ
MMDはソースオープンにこそなっていませんが、その構成技術情報やファイルフォーマットは多くの技術者によりオープンにされ様々なツールが開発されました。
その結果初音ミクだけでなく様々なキャラクターの3DCGデータが作成できるようになりました。
そしてその多くが最初に公開された初音ミクモデルに敬意を表し、ほぼ全ての3DCGデータが無償公開されています。
これらのMMD上の3DCGデータは固定ポーズのデータではなく、ポーズを自在に変えられる上に表情に至るまで細かな変形が出来るように緻密に作り上げられています。
また、こうした3DCGデータの人形を簡単に動かせるようにするために、例えば髪の毛は物理運動シミュレーションモデルを適用して自動的に体の動きに対してなびくように出来ています。
他にも美しい画質や画像効果を得るためにエフェクトプログラムを導入できるようになっており、フリーの3DCGアニメーションツールでありながらその表現能力はプロでも使える実力を持っています。
http://youtu.be/ui75rsiiB0E
ここまで膨大な情報を持つ「動く人形」が、ツール上でポリゴン分割に至るまでワイヤフレームレベルで確認できる事は3DCGアニメーション用人物モデリングノウハウの塊であり、それを技術レベルで蓄積・形状変更可能な形で公開されている世界に類を見ないデータベースとなっています。
また、MMDでは人物モデルだけでなく建築物や街丸ごとの背景モデルがいくつも公開され、そこに走る車や電車・汽車などの鉄道関係、船や戦艦と港、そして飛行機や空港に至るまで様々なモデルが公開されています。中には実際に走らせたり、走行中の挙動を自動シミュレーション出来るものも存在します。
MMDモデルを3Dプリンター出力可能にする挑戦
これらを3Dプリンターでその一部だけでも出力できたら・・・、と思うとぞくぞくしてきます。
が、現在はまだ出力する手段が殆どありません。
さっき少しだけ出てきた「3DCGモデルは3Dプリンターで出力するには情報が足りない」という技術的な問題が壁になってしまうのです。
とにかくMMDモデルを3Dプリンターで出力しようとしてみたらその難しさが分かります。
どれだけ手間がかかるかについては、以下のビデオに詳しくまとめています。
なお、この動画で出てきたMMDモデルを3Dプリンターで出力するためにかかった時間は大体3週間でした。
勿論これらの問題を克服するための3DCGモデリングテクニックをお持ちでいらっしゃる方なら問題はありません。
しかし、その能力を持つ人でも問題の解決のため2週間ほどの作業時間がかかります。
「そこまでしてMMDから3DCGモデルを3Dプリンターで出力したいか?」というと、大抵の人は気力が萎えます。
3DCG→3Dプリンター一発出力を実現する
アルゴリズムと試作プログラムの開発
「それだったらプログラムに一発通せば出力できるようになればいいじゃん!」
そう、そんなプログラムがあれば苦労はしないのです。
そこでそれを個人的に開発しています。
まずは以下の動画をご覧頂きます。
もう少し詳しくご説明していきます。
これが変換の元になる3DCGデータです。この時点では3Dプリンター対応のデータにはなっていません。
次にこれを独自開発した3Dプリンター出力用データ変換プログラム「EasyRecaster」に読み込ませます。
この時点でデータはレリーフ状になり、個人用3Dプリンターで出力可能なデータに変換されます。
この変換で得られたレリーフ状の3DデータをiPhoneケース出力用データに移植します。
最後にこのデータをfablab北加賀屋さんのMakerbot Replicator2Xで出力し、表面をパテやサフェーサーで整えてみました。
このプログラムを応用すると、
以下の様なダンスアクションアニメーションを立体化出来ます。
この動画を任意のポーズで停止させ、その時のポーズを立体化して連続的に配置したのが以下の図です。
ここまでは単なるレリーフ出力例についてご紹介しましたが、
「両面レリーフ」というテクニックを利用したフィギュア風の立体出力する試作も行なっています。
以下の図の立体物も同じ試作プログラムを利用して作成されたものです。
現時点でここまでの立体物が作成できる事が確認できています。
現状オープンソースにはしていませんが実行プログラムは公開しています。
使用方法につきましては以下の映像をご覧下さい。
http://youtu.be/-q3LBJ_mbK0
これらは独自に考案した3DCGモデルを3Dプリント可能にするアルゴリズムの確認用に作成したプログラムです。
今後はこれをよりエンドユーザー向けに気軽に使える形態にして公開配布したいと考えています。
オープンデータ文化を支えるにはデータ作者への支援が不可欠
MMDのようにオープンな3DCGデータが支える映像文化は、基本的にモデルデータやモーションデータ(ダンスなどの動きのデータ)を作る作者の努力があってこそ継続できると思います。
しかし、いかにデータがオープンであっても、そのデータを作る作者の努力や時間そして技術は決して無料=無価値ではありません。
現在は作者の作る3DCGデータがネット公開により視聴数を上げる等の非金銭的価値の授受が行われています。
しかし、そのため無償公開が当たり前のように思われている現実は決して健全とは言えません。
但し3DCGデータが二次創作による作品であるため、金銭を伴う授受はタブーな現実もあります。
こうした現実に対し、作者への金銭的支援を行える媒体として3Dプリンターによる出力品を活用するという方法を提案したいと考えています。
具体的にはある作者さんの3DCGモデルデータやモーションデータを利用したフィギュア等の立体物を作成するサービスを提供する方法です。
例えば今回開発をすすめる3DCGデータ→立体出力用3Dデータ変換プログラムでは、立体出力用に変換した3Dデータに「刻印(ENGRAVE)」を施すようにしています。
この刻印は現在公開中のプログラムでは必ず施されます。
今後、特定の3DCGデータ作者さん向けに、例えば作者さんのイニシャルを刻印化したバージョンを配布します。
その作者さんのモデルの立体出力品を欲しい人は、作者さんに依頼して、イニシャル刻印入りの3Dデータを直接変換してもらうようにします。
すると、作者さんによって立体出力のお墨付きをもらった3Dデータが入手できるようになります。
サービスは無形であるため、3DCGデータ作者さんはここでサービスに対する対価を要求することも可能です。
こうしたアイデアを具現化していくことで、
価値のある新しいオープンデータの作成活動を行う人達を支援する方策は必要です。
これからもオープンデータという文化を維持していく上で大切なことであると思います。
最終的にオープンデータ作者の制作活動が評価され、
生活しながらオープンデータの創作活動が出来る環境の実現すべく今後も活動していきたいと思います。